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妊婦の新型コロナウイルスワクチン接種希望の調査―未接種者の9割がワクチン希望―

2021年9月15日
JACSIS研究妊産婦調査分析特別チーム

メンバー
細川義彦、大川純代、帯包エリカ、片桐諒子、財津將嘉、重見大介、津野香奈美、中山祥嗣、名西恵子、堀愛、松島みどり、森崎菜穂、藤原武男、田淵貴大

2021年7月28日から8月31日にかけて全国47都道府県在住の妊婦1,621名が参加するインターネット調査(日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題による社会・健康格差評価研究 The Japan COVID-19 and Society Internet Survey: JACSIS study 2021)を実施し、下記の内容が明らかになりました。

【主要な結果】

  • 回答した妊婦1,621名のうち217名(13.3%)が既に新型コロナワクチン感染症に対するワクチン接種を行ったと回答した(1回接種のみ、2回接種のどちらも含む)。
  • ワクチン接種を行っていないと回答した1,404名にワクチン接種の希望を質問したところ、「接種したい」が579名(41.2%)、「様子を見て接種したい」が689名(49.1%)、「接種しない」が136名(9.7%)だった(図1)。
  • 接種希望の割合
  • 「様子を見て接種したい」と回答した689名にその理由を質問したところ、多かった順に「胎児への影響が心配」が588名(85.3%)、「副反応が心配」が576名(83.6%)、「授乳への影響が心配」が466名(67.6%)、 「家族や周りの人への感染が心配」が402名(58.3%)、「新型コロナウイルス感染への心配」が343名(49.8%)だった(図2)。
  • 様子を見て接種したい
  • 「接種したい」と回答した579名にその理由を質問したところ、多かった順に「新型コロナウイルス感染への心配」が551名(95.2%)、「家族や周りの人に感染させたくないから」が534名(92.2%)、「副反応のリスクより、感染の重症化の方が心配」が493名(85.1%)、「接種することが社会にとって必要だと思うから」が443名(76.5%)だった。
  • 「接種しない」と回答した136名にその理由を質問したところ、多かった順に「胎児への影響が心配」が120名(88.2%)、「副反応が心配」が113名(83.1%)、「ワクチンの成分が信用できない」が111名(81.6%)、「授乳への影響が心配」が94名(69.1%)だった。

【考察】

2021年8月20日に報道された新型コロナウイルス感染妊婦の自宅分娩による新生児死亡のケースを踏まえ、新型コロナワクチンの優先接種に妊婦を加える自治体もあり、本調査で判明した妊婦のワクチン接種希望の割合やその理由はとても貴重な情報といえます。
日本では、妊娠中における新型コロナウイルス感染症の重症化リスク1)やmRNAワクチン接種の安全性2)3)に関するエビデンスをもとに、妊娠中・授乳中・妊娠計画中の新型コロナワクチン接種が強く推奨されています4)5)。本調査では、「様子をみて接種したい」と回答した理由において、胎児や授乳への影響や副反応を心配している割合が高く、今後正しい情報をもとに安全性をわかりやすく伝えていく必要があります。一般の妊婦でも理解しやすい日本産科婦人科学会や厚生労働省の新型コロナワクチン接種に関するウェブサイト4)5)の情報を用いることで下記のような回答を行うことができます。

【心配に対する回答(参考資料4.5より)】

お腹のこどもへの影響が心配である。
mRNAワクチン(新型コロナワクチン)を接種した妊婦の流産、早産、胎児の発育不全、先天奇形、新生児死亡の発生率は、ワクチンを接種していない妊婦と変わりません。また、妊娠中の全ての時期でワクチンは接種可能です。妊娠中にmRNAワクチンを受けた方の臍帯血(胎児の血液と同じ)や母乳を調べた研究では、臍帯血にも母乳中にも新型コロナウイルスに対する抗体があることが確認されています。こうした抗体が、産後の新生児を感染から守る効果があることが期待されています。
副作用が心配である。
副反応に関し、妊婦さんと一般の人に差はありません。発熱した場合には早めに解熱剤を服用するようにしてください。アセトアミノフェンは内服していたただいて問題ありませんので頭痛がある場合も内服してください。
授乳中の子供への影響が心配である。
mRNAワクチンの成分そのものは乳腺の組織や母乳に出てこないと考えられています。授乳中にmRNAワクチンを受けた方の母乳中に新型コロナウイルスに対する抗体が確認されています。こうした抗体が、授乳中の子供を感染から守る効果があることが期待されています。

【研究対象者の特徴】

  • 調査期間中に回答が得られた1,791名から不正および矛盾回答を除外したところ、有効回答数は1,621名で有効回答率は90.5%(1,621/1,791)だった。
  • 回答した妊婦のうち、868名(53.5%)が初産婦であった。回答時の妊娠週数の内訳は、妊娠28週未満が356名(22.0%)、妊娠28週以降が1,265名(78.0%)だった。
  • 年齢の内訳は、25歳未満が72名(4.4%)、25〜29歳が505名(31.2%)、30〜34歳が629名(38.8%)、35〜39歳が340名(21.0%)、40歳以上が75名(4.6%)だった。
  • 居住地域の分布については、北海道・東北地方が151名(9.3%)、関東地方が581名(35.8%)、北陸・甲信越地方が85名(5.2%)、東海地方が212名(13.1%)、関西地方が311名(19.2%)、中国・四国地方が126名(7.8%)、九州・沖縄地方が155名(9.6%)だった。
  • 妊婦の基礎疾患(妊娠合併症を除く)として、高血圧症・糖尿病・喘息・甲状腺疾患・慢性腎臓病・自己免疫疾患のいずれかを有している回答者の割合は21.0%(340名)だった。また、新型コロナウイルス感染症の罹患歴があると回答したのは14名(0.9%)だった。
  • 就労状況として、「現在働いている」が578名(35.7%)、「産休中」が417名(25.7%)、「無職・専業主婦」が626名(38.6%)だった。

詳細については、現在作成中の論文で報告する予定です。

参考資料

  1. 1) Maternal and Neonatal Morbidity and Mortality Among Pregnant Women With and Without COVID-19 Infection: The INTERCOVID Multinational Cohort Study; JAMA Pediatr. 2021 Aug 1;175(8):817-826.
  2. 2) Evaluation of mRNA-1273 SARS-CoV-2 Vaccine in Adolescents; N Engl J Med. 2021 Aug 11
  3. 3) Preliminary Findings of mRNA Covid-19 Vaccine Safety in Pregnant Persons; N Engl J Med. 2021 Jun 17;384(24):2273-2282.
  4. 4) 日本産科婦人科学会 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報
    URL:http://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=10
  5. 5) 厚生労働省 新型コロナワクチンQ&A
    URL:https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0027.html

【お問い合わせ先】

筑波大学医学医療系産科婦人科学
細川義彦(本報告書の分析、執筆)
E-mail:hosokawa.yoshimd.tsukuba.ac.jp

国立国際医療研究センター国際医療協力局・グローバルヘルス政策研究センター
大川純代(妊産婦調査のとりまとめ)
E-mail:sokawait.ncgm.go.jp

大阪国際がんセンター・がん対策センター疫学統計部
田淵貴大(研究責任者)
E-mail: tabuchitakgmail.com

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